OZ/オズ (原題:OZ)

塀の中のアメリカ社会

オズワルド州刑務所は、最も警備の厳しい凶悪犯罪者用刑務所である。
更正プログラム実験区画エメラルドシティに、今日も新たな囚人がやってくる。
そこはまるで、アメリカ社会の縮図のようだ・・・。

制作国: us.gifアメリカ
放映時間: 50分
ジャンル: 犯罪
DVD発売: シーズン1~6 (US)
初放映:HBO 1997~2003 全6シーズン 全56話
初放映(JP):Super drama TV 2001~2005

総合評価:☆☆☆☆★
描写のきつさ:☆☆☆★
暗さ:☆☆☆


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オズとは凶悪犯罪者用のオズワルド州刑務所のことです。その中の更正プログラム実験区画といわれるエメラルドシティ、通称エムシティがこのドラマの舞台です。

物語は、飲酒運転で少女を轢き殺してしまった検察官のトバイアス・ビーチャー (as Lee Tergesen)が収監されるところから始まります。

多くの人がご存じの通り、アメリカの刑務所は比較的自由です。自由時間には区画内をうろうろして、様々な人と話したり遊んだりできます。タバコも電話もOKで、どこかしらから持ち込んだ麻薬をやっている輩もいます。

外界の地下社会同様、様々なグループに分かれています。人数的にも巨大な精力である黒人グループは、ジェファーソン・キーン (as Leon)が取り仕切っています。麻薬を取り仕切っていて、自らの勢力を守るためには、暴力や殺人も平気で行います。

オズにはスポンサー制度というものがあり、新参者が環境に順応するのを助けるため、同じ人種や背景などを持つ人が指名されます。しかし、ビーチャーは、スポンサーであるディノ・オルトラーニ(as Jon Seda)は、抗争の渦中にいたため、殺されてしまいます。

ビーチャーと同室になったヴァーノン・シリンガー(as J.K. Simmons)は、アーリア人軍団のリーダーで、純白人以外をひどく嫌っています。ビーチャーをレイプしてペット扱いしたので、ビーチャーはシリンガーをひどく憎みます。シリンガーはかなりの実力者で、他の勢力からも一目置かれています。ただ、彼らはドラッグはやらず、そこが他の勢力との違いです。

ちなみに、囚人の中には男性同士で性的関係を持つ者がいますが、彼らはゲイというわけではなく、性的欲求を満たすためにやっているだけのようです。何だかやってると慣れてくるようで、特に気にならなくなるようです。

別に男に興味を持つことは問題ではないのです。ただ、女装をしているゲイ連中は、気色悪いと他のグループからはいじめられています。

ムスリム(イスラム教徒)グループは、カリーム・サイード (as Eamonn Walker)によって、厳しく統治されています。ほとんどが黒人ですが、イスラム教に深い信仰があれば誰でも構いません。暴力や麻薬に反対する人格者で、非常にカリスマ性がありますが、他のグループからは煙たがられます。

理由は単に宗教的なものです。管理側からもそういった意味で理解しがたいおかしなやつらだと思われています。

イタリアングループは、ニーノ・シベッタ (as Tony Musante)をボスとし、ゴッドファーザーな組織を構成しています。麻薬取引をしているため、黒人グループとは争いが絶えません。看守や外界との繋がりも強く、人数の割には大きな力を持っています。

中米系のラティーノグループは、主にプエルトリコ人で構成されています。こちらも麻薬売買を取り仕切っていますが、リーダーのミゲル・アルバレス (as Kirk Acevedo)は、精神的な強さがなく、それほど力がないため、それほど大きな勢力を持っているとはいえません。

グループ同士の抗争や、グループ内の抗争などで、トップはしばしば変わります。誰かを失脚させるためなら、普段は敵対をしていても手を結んだりします。一応看守が見回りをしているので、暴力沙汰にはならないはずですが、次々と抗争による死者が出てしまいます。

この混沌としたエムシティの管理者はティム・マクマナス (as Terry Kinney)。管理側としては一人カジュアルな格好をしています。彼の理想のもとに作られたエムシティですが、どう考えてもうまく機能していません。そのため、囚人達からはアホ扱いを受けています。

看守達の中には、囚人達に買収されている人間もいて、マキシマムセキュリティという看板も実際には名折れしています。

毎回外から新たな囚人が入ってきます。彼らがどのような理由でここに来たのか、当時の事件の映像が流れます。どうでもいいように思うかもしれませんが、これがあるとないでは、随分違うように思います。

真面目で小心者だったビーチャーは、麻薬や恐怖で汚染されているこの空間に徐々に汚染されて適応していきます。とはいえ、あくまで彼はこのオズという舞台の役者の一人にしか過ぎません。

この限られた空間の中での権力争いや個々の心情を生々しく描いていくのがこのショウです。囚人、看守、管理者がその時その時にショウの中心となります。

6年間、1シリーズ8話という短いシリーズで、内容濃く、テンポ良く展開したショウは見事に幕を閉じました。アメリカのテレビシリーズの汚点ともいえる、無駄に長いシリーズ、進まない話、無駄な長話、後からとってつけたような設定などなど色々あります。

このショウはそういったものを一切排除し、素晴らしいものとして作り上げられました。ショウの制作は、ホミサイド:殺人捜査課(原題:Homicide: Life on the Street)の制作総指揮、トム・フォンタナとバリー・レヴィンソンの2人。

そうした経緯もあって、ホミサイド組の役者が多く出演しています。また、ロー&オーダーの制作者とも仲が良く、ロー&オーダー組も何人もいます。

SVUの主役を演じているクリストファー・メローニは、狂気の男クリス・ケラーを。そしてクリミナルインテントでこちらも主役を演じているキャスリン・アーブは、オズでは初となる女性の囚人、しかも死刑囚のシャーリー・ヴェリンジャーを演じています。

このショウの制作者2人は、今「The Philanthropist」を作っていますね。

アメリカ社会縮図的視点

このショウは、アメリカ社会に潜む、純粋な欲望や憎悪を描いているショウと言ってよいかと思います。アメリカ社会は、様々な人種や思想が融和しているように思えるかもしれませんが、実際はこうした差別や偏見、憎悪の上に立っているのでしょう。

わたしたちが笑いながら観るコメディや、のほほんとした明るいファミリーショウ、エキサイティングな映画も、こうした土壌の上に立っているのです。これが現実です。

さておき、アメリカ社会のある部分を凝縮してうまく誇張し、楽しめるような仕上がりになっています。わたしはマフィアモノとかヤクザモノっていうのは全然好きじゃなくて、映画「ゴッドファーザー」もそれほど面白いとは思わないんですよね。「ザ・ソプラノズ」も。

わたしがこれを面白いと思うのは、人種や思想ごとに明確なグループがあることです。独立していたり、単にどこにも所属していない人もいますが、そういった人間が居ることが、別の現実感があるように思います。

この点について一つ書かねばならないことがあります。このショウには、主役級のキャラクターが何人もいますが、その中にムスリム(イスラム教徒)がいるのはアメリカテレビ界では極めて異例です。いや、欧米テレビ界といっていいでしょう。

そしたらアジア人もだろうっていうと、キリはないんですが、アメリカ社会の中で。いや、ユダヤ人が多くを占めるアメリカテレビ界では、信じがたい事なのです。この点に於いて、制作側の英断には拍手を送りたいです。まあ、リアルに描くには無視できなかったのでしょうが・・・。

さておき、グループ間が、利害が一致する局面に於いて手を結んだり、敵対したり、だまし遭ったりと、そういう各個人の思惑だけでなく、複数のグループの思惑が内外構わず激しく、様々な方向にうねるところが面白いです。

こんなにアメリカ社会の現実をストレートに描いた作品は、なかなかありません。その点が、このショウをわたしが面白いと感じる理由です。

直球評価

・地味だが起伏があるので楽しめる。
・言葉や暴力描写はきつい。
・家族向けではない。
・物語のテンポが良く楽しく観られる。
・共感すると言うよりは傍観するショウ。
・主役級のキャラクターにムスリムがいる。驚き!
・万人ウケではないが、素晴らしい。


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